はじめに
本記事は、5月17日にサンキタ広場と神戸電子専門学校にて開催された「音楽とAIの融合」のイベントレポートとなります。

GDG Greater Kwansaiとは
GDG Greater Kwansai は、広域関西圏で活動する Google Developer Group です。 大阪、京都、奈良、神戸、岡山、四国、広島大学、大阪大学、金沢工業大学など、広い意味での「関西」を活動範囲にしています。 主に AI や Cloud Computing など最新のテクノロジーに関するセミナーやワークショップを行っています。

イベント概要
このイベントは、音楽家とAIが共演することで、AI時代における人間の創造性と役割を探る場として開催されました。音楽家とIT技術者が対話を交わしながら、AIと共存する社会で求められるプロフェッショナリズムや教育のあり方について実体験を踏まえて語られ、参加者に新たな気づきを与えました
第一部 ミニコンサート

第一部では神戸・サンキタ広場にて、チェロボーイズによるミニコンサートが開催されました。美しいチェロの生演奏が広場を包み込み、街中に心地よい音楽があふれました。
演奏された楽曲は以下の4曲です:
・Despacito – Luis Fonsi
・香水 – 瑛人
・Resistance – Muse
・You Raise Me Up – シークレット・ガーデン
ただ演奏を届けるだけでなく、ユーモアを交えた巧みなトークや、お二人の息の合った掛け合いも印象的で、通りかかった人々の心を引きつけました。
立ち止まり耳を傾ける観客は次第に増え、最終的には40人以上が演奏を楽しむなど、会場は温かな一体感に包まれていました。
第二部 トークショー

司会に石原直樹さん、ゲストにチェロボーイズのお二人をお招きし、音楽家とITエンジニア双方の視点から3つのテーマについての対談が繰り広げられました。
テーマ1:AI時代に人間は必要か
このテーマについて、チェロボーイズのお二人からは「これからの音楽家はむしろ必要になる」とのお話がありました。
音楽は感動を伴うものであり、AIにはその“感動”を理解することができないため、人間が生み出す“人間味のある音”に改めて価値が見出されるのではないかというご意見でした。
機械的なボーカロイド音楽が一時代を築いたように、今後はその反動として、温かみや個性を持った演奏が求められるようになるのではないかと語られました。
一方、ITエンジニアからは、「簡単なことしかできないエンジニアは淘汰されていくだろう」との見解が示されました。
AIの発展により、今ある仕事は徐々に置き換わっていく一方で、新たな役割や職種が生まれていくとのこと。エンジニアの総数は減少するかもしれませんが、AIを活かすことで世界全体の生産性は確実に高まっていくとのお話でした。
テーマ2:AI時代の教育
このテーマでは、幼少期の環境や学び方がどれほど重要かについて、音楽家と教育の専門家の両方から示唆に富んだお話がありました。
ゴーシュさんからは、小さいころから音楽が自然と身近にあった環境に感謝の気持ちを持っておられました。チェロを始める前から音楽の展開を無意識に理解していたことが、演奏にも大きく影響したといいます。
ネロさんからは、AIに対して「どうすれば自分の意図を聴き手に伝えられるか」といった問いを投げかけることで、非常に的確なアドバイスを得ることもできるそうです。そのためには、自分の悩みや考えを具体的に言語化する力も必要であり、AIはまさに“支えてくれる存在”だと語られました。
また、ソフトウェア教育と脳科学の専門家からは、幼い頃の経験が深いレベルで感覚として定着することの重要性が指摘されました。認知的に理解する以前の段階で音楽や技術に触れることが、将来的に大きな基盤となるというお話でした。
AI時代においても、幼少期の体験や環境が持つ力、そしてAIとの適切な向き合い方が、学びの質を高める鍵になるのかもしれません。
テーマ3:プロとアマチュアの違い
音楽の世界では、「プロにしか出せない音」「アマだからこそ出せる音」という議論がたびたびなされるそうです。チェロボーイズのお二人は、この問いにそれぞれの立場から明確な思いを語ってくださいました。
アマチュアとして活動するゴーシュさんは、会社員としての日常を過ごしながら、チェロの演奏に取り組んでいます。その中で感じるのは、日々のストレスや生活の積み重ねが音に込められているという実感です。演奏のひとときが「お疲れ様チェロ」となり、自分でも驚くような良い音が出る瞬間があるといいます。それはまさに、人生のストーリーが音に現れているからなのかもしれませんと語られました。
一方で、プロとしての立場を担うネロさんは、「アマチュアは気楽でいいなぁ」と笑いつつも、相方の生き生きとした演奏に刺激を受けていると語ります。安定した技術と表現のベースを築きながら、ゴーシュさんの自由な音楽に新鮮さを感じている様子です。
それぞれの立場で、それぞれにしか出せない音がある。お二人の関係性と音楽に対する姿勢から、その言葉の重みが伝わってきました。
第三部 音楽とAIの融合

イベントの最後を締めくくる第三部では、AI調律師の村岡 正和さんをお迎えして、生成AIを活用し“音楽との融合”をテーマにした実験的な取り組みが行われました。
まずGoogle AI Studioに、チェロボーイズのお二人のプロフィール情報と写真を渡し、音楽生成AI「Suno」に渡すためのプロンプトを生成。そこから得られたプロンプトをSunoに入力すると、チェロボーイズのためだけに作られた音楽が生成されました。

音楽を聞いて、AIとの共演が始まる
生成された音楽をチェロボーイズにお聞きいただいたところ、ネロさんは「一度聞いただけで構成が思い浮かんだ」と即座に反応。また「曲の中に込められた意図が伝わった。これは私たちのために作られた曲だと感じた」とコメントされ、AIとの距離が一気に縮まった瞬間でした。
本番では、その音楽に合わせて即興で演奏が始まり、会場にはまさに“融合”の空気が生まれました。特筆すべきは、AIが描いたメロディのイメージが、ネロさん・ゴージャスさんともに共通していたことです。まるで同じ物語を共有しているかのような演奏でした。
ユーモアも交えつつ、AIとの対話は続く
生成された2曲目は主旋律にピアノが使われており、チェロが入りづらい構成に。ネロさんは冗談まじりに「ピアノに占領されてて、ちょっとイラッとしました(笑)」と語る場面もあり、AIとの“楽しい摩擦”も印象的でした。
さらに、Google AI Studioでは「AIと音楽の融合」をテーマにした映像も生成。それを背景に最後の曲が演奏されました。
この曲についてゴージャスさんは「最初の曲よりイメージはしにくかったが、次々とシーンが変わっていく感じがして面白かった」と振り返り、「AIにはいろいろな顔があるなと感じた」と語りました。
AIと音楽で“乗れた”瞬間
演奏を終えたあと、ネロさんは「sunoで自分でも音楽を生成してみたい」と話し、今後への興味を強く示してくださいました。途中から村上さん(司会/構成担当)も「チェロボーイズがAIの音楽に“乗ってきた”のを感じた」と語り、最終的には「AIの作った曲に乗れたということは、それ自体が融合だったのではないか」と印象を語ってくださいました。
ネロさんは「AIが“はい、どうぞ”と展開を用意してくれていて、それに応えているような感覚だった」とも話されており、音楽を介したAIとの“対話”が確かに成立していたことを物語っています。
村岡さんは「AIはただの人が作ったソフトウェアでしかないが、それと一緒に仕事をしてみたいと思ってくれたことが、1人のエンジニアとして何よりも感動だった」と語り、AIと人間の協働によって生まれた、予想を超えるクリエイティブな瞬間に胸を打たれていました。
まとめ
本イベントは、音楽家とITエンジニアがAIを介して対話し、創造性の本質や人間の役割について改めて考える貴重な機会となりました。AIはあくまで道具でありながら、人の感性を引き出し、共に創る存在になりうる。そんな未来への希望を感じさせるイベントでした。
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